パパ

彼女にするなら、料理が上手で掃除が好きな人がいいなあと思う。わたしもできなくはないのだが、最低限のものしか作れない。掃除は週に一度、掃除機をかけるくらい。男の人が、料理上手な女の人を求める気持ち、痛いほどよく分かる。人間みな、自分にないものを他人に過剰に求めるのだ。わたしが欲しいのは恋人ではなく、パパとママが合体しみたいな人がほしい。これはどうなってるの?この仕組みは?わたしが聞いたらパパのように答えてほしい、ママのように美味しい料理を作ってほしい。つらいとき背中を撫でてほしい、どんなときもわたしを受け入れてほしい、癇癪を起こしたら抱きしめてほしい、ただ愚痴を聞いて慰めてほしい。しかし、そんな都合のいい人間はいない。分かっていたはずなのに、わたしはなぜか安心し切っていた。恋人もふざけて「ぼくがやってることは恋人じゃなくて父親みたいなことだなあ 」なんて言うから。最近は父親が子どもにするようになんでもしてくれて、甘やかしてくれてるから、わたしも歯止めがきかなくなった。可愛いわがままとただのメンヘラ行動の境界線を見誤ったのだ。昨日はわたしは気圧やらなんやらで具合が悪かった。恋人に癇癪を起こし、訳の分からない試し行動なんかやってみたせいで険悪なムードになり、収集がつかなくなった。あーやらなきゃよかった、と思ったのはもうなにもかも終わったあとで、わたしは必死に謝るけど、許してはもらえない。でもわたしは許してほしい。だってわたしのあなたにはパパになってほしかったから。撫でて、抱きしめて、優しい言葉をかけてほしかった。でも異性に父性を求めたら終わりだ。あくまでわたしたちは男女の関係だから。癇癪を起こし、つまらない試し行動をすれば呆れられてしまうし、最悪別れに繋がる。セックスをせず、抱きしめてほしいだけなんて都合が良すぎる。異性に父性を求め続けているあいだは、わたしはきっと、幸せにはなれない。